なりそこねた小説 参

お題「紅葉」

 

なんでもできる気がしていた。実際になんでもできた。今はできない。だから証明のしようがない。

 

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拝啓。寒くなり始めると紅葉が綺麗になりますね。先祖代々の山も綺麗に染まるはずでした。今はソーラーパネルでギラギラと光り輝いていますよ。相続したら大事にするなんて真っ赤な嘘。紅葉みたいに。敬具。

 

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ジャックは紅葉のなかに生み捨てられていた仔犬だった。人が捨てたのではない。母犬が捨てたのだ。毛が一本も生えていない無垢な肉体は紅葉の赤さに反比例して冷めた色に変わっていく。冷たくなった。後日、近所の掃除を日課にしている老人が彼を見つけてジャックと名付け庭に埋めたらしい。

 

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なんでもいいからお題をくれ。即座に応えて見せるから。紅葉?けっこう、けっこう。雪の降らない都会の明るいクリスマスにパソコンウィンドウのなかだけで輝く紅葉。目を閉じれば紅葉が見える。血管だった。紅葉、紅葉。

 

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短歌『もしかして知り合いかもって教えられた紅葉のころに忘れた名前』

なりそこねた小説 弐

クリスマス。雪のないクリスマス。恋人のいないクリスマス。金のないクリスマス。どれがないのが最も悲しいのだろうか考えていたら時間がなくなっていた。あ、タクシー。

 

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盗賊の五郎兵衛は仲間の裏切りにあって鵜殿の河原で首を落とされるところでありました。盗賊仲間のなかで五郎兵衛の役回りはせいぜい見張り程度のものでしたが何分人付き合いというものが苦手な性分でありましたので何もしていないのに仲間から疎んじられていたものですから根城が検非違使の急襲に遭いましたおりには彼ひとり、捕らえられたのでした。

 

五郎兵衛ごときに大臣の屋敷を打ち破ったり命婦の牛車を人もろとも攫ったりするなどということは到底できないであろうことは誰の目にも明かでしたが、都の人の楽しみは盗賊の首斬りくらいでしたので誰であっても構わなかったのです。

 

ばっさり首は落とされました。

 

なにか救いがあると思いましたか?いいえ、話はこれでおしまいです。

 

 

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死人に口なし。仏に口あり。お釈迦様は美しい。醜いのは生きている人。口ばっかり。

 

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短歌『ヘイあなた、ギブミーギブミーサムシングもっているものぜんぶ置いてけ』