なりそこねた小説 九

寂しかった。誰でもよかった。仲良くなれるのであれば。女がよかった。接吻して、抱いて、可愛がってやりたくなるような愛おしい人がほしかった。今ぼくはクッションを抱きしめて眠れずにいます。クッションを引き裂きたい衝動に駆られますが、片付けが面倒なのでそれはしません。寂しさに任せて僕は「ニャア」と鳴きました。人でないなら寂しくなかろう。そう思ったのかもしれません。

 

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もしもあなたが私の想いを受け止め魂の一部にするのであれば甘美ではないのだが、だが苦難にはしないし、私の魂は羽根のように軽い靴のようなものだ。それは空を飛べるほど。あなたに膝まづいて一足だけを譲りたい。天高く雲の中の神々の領域であなたを独占したい。さあ、私は膝まづいたのだから後はあなたの足をだしてくれはしないのだろうか?

 

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夢のなかでも泣いていたに違いない。今日の心は萎びている。なんだか全てが水っぽく感じられる。例えば畳。畳の上で死ぬよりも機上機関銃で撃ち殺されたい泥の上で。例えば包丁。今ここに危うさが用意されている。例えば冷蔵庫。ぼくたちの人生は誰かの冷蔵庫であるかのように冷え冷えとしている。萎びた心で覗いた隣家の窓には後悔と倦怠が感じられる飾りが施されていた。萎びた心はくだらない薀蓄ばかりを染み出して臭いのだ。もういっそだれか燃やしてくれないか。燃える恋。恋で燃える。そんな夢物語を。

 

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短歌「恋人よ君は恋だけくれたのか僕は真面目になっているのに」